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仙台家庭裁判所 平成2年(少ハ)5号 決定

少年 H・Z(昭45.12.14生)

主文

1  本人を平成2年12月14日から平成3年8月13日まで中等少年院に継続して収容する。

2  仙台保護観察所長は、環境調整に関する措置として、本人の少年院退院に際して、適切な就職先が確保されるよう、早急に協力及び援助を行われたい。

理由

(申請の理由)

青森少年院長作成の平成2年11月15日付収容継続申請書記載のとおりであるからこれを引用する。

(当裁判所の判断)

第1収容継続申請事件について

1  一件記録によれば、本件では、次の各事実が認められる。

(1) 本人は、昭和63年8月19日、当裁判所において、毒物及び劇物取締法違反、窃盗、道路交通法違反、ぐ犯保護事件により中等少年院送致の決定を受けて、同月22日盛岡少年院に収容された。同少年院において、本人は、素直に指導を受入れ、課題や仕事への取組みも熱心で根気強く、知的能力が低いものの総じて普通の成績を維持することができ、比較的良好な状態で推移したため、平成元年7月3日、同少年院を仮退院することができた。

(2) しかし、本人は、仮退院直後は一応真面目に稼働していたものの、約3か月程してからは仕事を懈怠して夜遊びをするようになった他、有機溶剤の吸入を頻繁に繰り返し、家庭内暴力や無免許運転を行う等したため、平成2年8月23日、当裁判所において、中等少年院に戻して収容する旨の決定を受け、同月24日、青森少年院に収容された。

(3) 本人の、青森少年院での生活は真面目で落ち着いたものであり、他の少年達とも、和やかで節度をわきまえて接しており、日課の取組みも熱心で、薬物使用を大きな問題と捉えて訣別意思を表明する等、外面的には非常に良好な状態を保っている。しかしながら、本人は、職員に心情を尋ねられると、他の少年の言動により内心かっとなることがあるとか、人間関係に摩擦を生じさせないように生活するのは大変である旨述べる等、集団生活にかなりの負担を感じている様子であり、未だ集団生活に十分に適応しているとは言い難い。また、承認要求が強く、話を誇張して関心をひこうとする傾向がある一方、自信に欠け、安易に周囲に迎合し、享楽的な方向に流されやすく、それだけに有機溶剤吸入事犯への依存性が強く、知的に劣る(平成2年8月の検査においてIQ=60)関係もあって矯正教育の効果を生じさせ難い側面のあること等の問題点が指摘されている。

本人については、青森少年院の個別的処遇計画においては、1か月の新入時教育の後、7ないし10か月の中間期教育を経て、2.5か月の出院準備教育を行う予定が立てられており、平成2年9月25日から中間期教育過程に編入されているところ、平成2年12月14日をもって20歳に達するものである。

(4) 青森少年院としては、本人について、現段階でも、入院から出院まで、少なくても同少年院における成績最優秀者と同様の9か月の施設内教育を要する他、その後の相当期間の保護観察が必要であるとの意見を有しており、平成2年11月の青森少年鑑別所の再鑑別結果通知書においても、収容継続及びその期間決定における十分な保護観察期間の確保の必要性が指摘されている。

2  そこで検討するに、本人が盛岡少年院において比較的良好な生活状態を示していたにもかかわらず、仮退院後に上記のような行動に出て戻収容決定を受けるに至っていることからすれば、本人については、外面的な成績の優秀さが直ちに本人の問題点の本質的改善の徴表であるとするのは相当でなく、その再非行を防止するためには、一定期間にわたって、教育を続けると同時に良好な生活を継続させて、自尊心を高め自信を獲得させることが重要であると判断される。本人は、現時点において、青森少年院収容後約3か月を経過したに過ぎず、なお上記各問題点を有していることが指摘されているのであり、この段階で退院させれば、以前と同様の問題行動を繰り返す恐れがないとは言い難い。したがって、本人の犯罪的傾向はまだ矯正されておらず、少年院から退院させるには不適当であると認められる。

3  次に、収容を継続すべき期間を検討するに、上記のとおり、同少年院における施設内の教育過程を最短で行うとしても、本人が20歳に達した後なお5か月間を要すること、また、同少年院入院前の本人の住居地は、両親及び兄達がいずれも保護能力が弱い(父は以前酒乱で、現在でも飲酒が続いており、母は精神病であり、奇異な行動が多い。また、兄が二人いるが、それぞれ遠方で暮らしていることから強力な援助は期待できない。)上、同地にはシンナー仲間、暴走族仲間、暴力団準構成員である友人等が大勢いるという事情があるので、出院後に本人が適切な居住場所において安定した生活を送り、真面目に稼働していく環境等を設定していくためには保護観察による助力が不可欠であり、そのための期間としては、少なくとも3か月を要することが認められるので、申請どおり計8か月の期間が必要であると認められる。

4  以上の理由で、少年院法11条4項、2項、少年審判規則55条により、主文1項記載のとおり決定する。

第2環境調整に関する措置命令について

上記のように、本人は、家庭環境及び交遊関係が劣悪である上、能力的にも劣っているため、退院後における安定をはかるためには、暖かい理解の下に本人を受け入れ、良き助言者となれる雇主の下での就職先を確保することが是非とも必要であり、現時点から、保護観察所長によるそのための意欲的な協力及び援助を行うことが必要かつ相当であると思料する。そこで、少年審判規則55条、少年法24条2項に基づき、仙台保護観察所長をして主文2項記載の環境調整に関する措置を行わせることとする。

(裁判官 合田智子)

〔参考〕 収容継続申請書

青少院発第578号

平成2年11月15日

仙台家庭裁判所殿

青森少年院長 高石賢一

収容継続申請書

少年氏名 H・Z

生年月日 昭和45年12月14日

本籍 宮城県名取市○○×丁目×××番地

上記少年は、平成2年8月23日に貴庁において、中等少年院に戻して収容する旨の決定を受け、同月24日から当院に収容中の者であるが、同年12月14日をもって20歳に達するものである。

しかるに、非行に関わる少年の問題点の改善の度合は、未だに十分なものとは認められず、20歳に達した後も矯正教育を引き続いて実施し、さらに、当院を出院した後も、更生的生活態度の定着に向けて保護関係機関の援助を得る必要性が高いものと思料される。

ついては、矯正教育及び保護観察のための期間確保の措置が必要と思料されるので、少年院法第11条第2項に基づき下記のとおり8か月間の収容継続を申請する。

1 処遇経過及び成績の概要

(1) 処遇経過

平成2年8月24日 入院、新入時教育過程・2級の下編入

27日 収容継続決定(少年院法第11条第1項ただし書により平成3年8月22日まで)

9月25日 中間期教育過程(造形科・集団寮)編入

11月1日 2級の上進級

14日 収容継続取消決定(平成2年8月27日付けの決定の取消)

(2) 成績の概要

授業にはよく集中し、自由時間も学習や読書などで落ち着いて過ごし、他の少年たちとも、和やかで節度のある態度で接しており、これまでのところ、少年の院内での実際行動は、総じてまじめなものと評価できる。

また、非行の反省や自己の問題点の分析などの考える作業にも、熱心に取り組み、特に入院後5日目からの内観処遇では、想起量(思い出したことがらの量)も多く、家族に迷惑をかけたことなどの想起事項を、涙ぐみながら職員に述べたりするなど、真剣に取り組んだ様子が認められた。

ただし、集団生活に対しては、かなり負担を感じているもようであり、本人から、すすんで職員に気持ちを伝えることはないが、心情を問われると、ときどき他の少年の言動に気持ちを傷つけられ、内心かっとなっていることや、人間関係に摩擦を生じさせないように生活するのは大変であると感じていることを述べるなど、まだ十分な適応感を見出す段階には至っていない。

2 心身の状況

(1) 知能

IQ=60(新田中3B式、検査日:平成2年8月7日)

知能はかなり劣る。

(2) 性格等

感情の起伏が行動となって現れやすく、自己統制力が弱いため、かっとなると周囲への配慮なく粗暴な行動に出てしまいやすい。

人から認められたい、よく思われたいという承認欲求が強く、話を誇張したりして関心をひこうとしやすい。その一方で、自分を積極的に主張するだけの自信はなく、集団のなかでは気後れして、周囲に迎合した行動をとりやすい。

精神的に未熟な少年であり、現実の問題から逃避し、先の見とおしもなく、享楽的な方向に流されやすい。

(3) 精神障害

能力的にはかなり低いが、精神薄弱とは認められない。

3 収容継続申請期間

平成2年12月14日から平成3年8月13日までの8か月間

4 申請の理由

少年は、当院に入院して以来、まじめで意欲的な態度での生活を続けており、意識の面についても、つらいことや不得意なことから逃げないようになりたいと述べるなど、前向きなところが認められる。

他の少年たちとの関係も、過敏で傷つきやすいところはあるものの、表面的には温和で節度のある態度を保とうと努力をしている。

少年の再非行防止については、こうした良好な生活を継続させ、このことをとおして自尊心を高め、自信を獲得させることが特に重要なことと思われ、そのためには、入院から出院までの矯正教育の期間として、当院における実際上の最短の収容期間、すなわち成績最優秀の者の収容期間である9か月程度を、最低限確保しておきたいところである。

また、当院出院後については、施設内での良好な成績が、社会内処遇に反映されなかったという過去の経緯や、父母が指導力や監督意欲を低下させているために、更生保護会以外には適当な帰住先を得られないかも知れないという環境調整の現状を考慮した場合、保護観察下に置くことが妥当と思われ、更生的な生活態度を定着させるための同観察の期間として、少なくとも3か月程度は確保することが望まれる。

以上の理由により、入院の日からおおむね1年間、20歳に達した日から8か月の収容期間の確保が必要と思料されるので、少年院法第11条第2項に基づき、収容継続の措置を申請するものである。

5 添付書類

(1) 再鑑別結果通知書(写し)・・・別紙1

(2) 個別的処遇計画(表)(写し)・・・別紙2

(3) 成績経過記録表(写し)・・・別紙3

別紙1

青少鑑受第1538号

平成2年11月7日

青森少年院長○○○○殿

青森少年鑑別所長○○○○

再鑑別結果通知書

平成2年11月2日付け貴発第555号をもって依頼のあった下記の少年についての再鑑別の結果、次のとおり通知します。

1少年氏名:H・Z

2生年月日:昭和45年12月14日

3事件名:中等少年院に戻し収容

再鑑別結果

1再鑑別実施年月日:平成2年11月6日

2再鑑別実施担當者:法務技官○○○○

3再鑑別実施場所:青森少年院

4再鑑別依頼の主眼点:満齢後の収容継続の要否について。

5結果の概要:別紙のとおり。

別紙

鑑別所見

少年氏名 H・Z

1 現在までの問題点等について

仮退院中の行状が不良で、本年8月に戻し収容になったケースである。

知的に劣る(IQ=60)上に、主体性が乏しく、ちょっとしたことで挫けたり、あるいは周囲からの誘いに安易に同調する形で享楽的な方向に流されやすい点は、鑑別結果通知書に記載されているとおりである。

このように資質的に劣っている上に保護環境が劣悪であり、仕事も長続きせず、シンナー吸引とか不良交遊といった現実逃避的な形での逸脱行動を繰り返している少年である。

社会適応能力が乏しくその不適応感から逃れようとして問題行動に及びやすいところが少年の特徴であり、それだけにとくにシンナーへの依存性の強さが問題である。また、能力的に劣るだけに矯正教育の効果もなかなかあがりにくいタイプであると言えよう。

保護環境面では、父が酒乱であるし、母も精神病で奇異な行動が多いようである。また、兄弟も皆ばらばらの状態である。このような家庭の状況では保護調整にはかなりの期間を要すると思われるし、場合によっては新たな帰住地を確保する必要性が生じてくる可能性もある。

2 今後の処遇方針

以上述べたように、少年の資質面、保護環境面のいずれにも問題が大きい。

少年に対しては、安易な方向に逃避しようとせず、社会的に真に自立しようとする意欲や構えを持たせるよう指導していく必要がある。少年の問題性の質、程度、及び先に述べた教育効果のあがりにくい点を考慮に入れれば、この目標に到達するには今後かなり長期間を要すると思われる。

また、保護調整が困難なことは、これも上に述べたとおりである。

あと一月足らずで満齢になるが、以上から、収容継続を行う必要があると思科する。また、その期間の設定については、少年の場合は帰住先の不安も大きいことから、仮退院後の保護観察期間を十分に確保できるようにしておくことが必要であろう。

別紙2〈省略〉

別紙3〈省略〉

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